長崎で起きた「労災隠し」から考える──経営者が守るべき最低限の安全管理

ニュースで報じられた長崎の「労災隠し」の事案は、決して他人事ではありません。
中小企業や現場を抱える事業者にとって、「うちでも起こり得ること」として受け止めるべき内容です。
このコラムでは、実際に公表された事案をもとに、経営者として押さえておきたいポイントを整理します。
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1.長崎で発生した「労災隠し」の概要

長崎県西彼杵郡長与町の倉庫で、フォークリフトの爪に労働者を乗せて作業中、約2.7メートル下に墜落し、 52日間の休業を伴う骨折事故が発生しました。
本来であれば、こうした労働災害は「労働者死傷病報告」として労働基準監督署に報告する義務がありますが、 事業者は約9か月間、報告を行っていませんでした。いわゆる「労災隠し」です。
さらに、事故当時フォークリフトを運転していたのは無資格者であり、就業制限に関する法令にも違反していました。

2.なぜ労災隠しが起きるのか

労災隠しは、単なる「報告漏れ」ではなく、組織の安全管理や意識の問題が表面化した結果です。
背景には、法令違反という事実と、現場特有の心理が複雑に絡んでいます。

(1)法令上の義務が明確であるにもかかわらず遵守されない

労働安全衛生法では、4日以上の休業を伴う労働災害について、遅滞なく報告する義務が定められています。
報告を怠った場合には罰則もあり、行政としても「労災隠しは被災者の救済と再発防止を妨げる重大な行為」と位置づけています。

(2)“会社の評価が下がる”という誤った経営判断

「労災があると取引先の評価が下がるのではないか」「保険料が上がるのではないか」といった誤解から、
事故を小さく扱おうとするケースがあります。
しかし実際には、隠蔽が発覚したときのほうが、行政処分・信用失墜・再発時の損害拡大など、経営にとってははるかに大きなダメージとなります。

(3)安全管理体制が弱い企業ほど隠蔽が起きやすい

無資格者に危険な作業をさせてしまう、作業ルールが徹底されていない、
事故が起きても「自己責任」で片づけてしまう――。
こうした職場環境では、「事故」だけでなく「隠蔽」も同時に起こりやすくなります。

(4)「軽いケガだから報告しなくていい」という誤解

法令上の判断基準は、「軽症かどうか」ではなく「休業日数」です。
本人の申告や会社の都合は、報告義務の有無には影響しません。

(5)手続きの煩雑さを理由に後回しにしてしまう

労災の手続きは確かに手間がかかりますが、「忙しい」「面倒だ」という理由は法令違反の正当化にはなりません。
後回しにした結果、報告そのものが行われない――これが最も避けるべきパターンです。

3.経営者が最低限押さえるべきポイント

長崎の事案は、どの企業でも起こり得る問題を示しています。
経営者として、次の3つだけは最低限押さえておきたいポイントです。

(1)4日以上の休業=必ず報告

判断基準は「症状」ではなく「休業日数」。法令に基づいた運用が必要です。

(2)無資格者に危険作業をさせない

資格・技能講習の有無を会社として把握し、配置や指示の段階で管理することが重要です。

(3)事故は隠すほどリスクが増す

行政処分、罰金、企業名の公表、信用失墜――。
隠蔽は「会社を守る行為」ではなく「会社を危険にさらす行為」です。

4.最後に

労災は、どれだけ対策をしていても完全にゼロにはできません。
しかし、事故が起きた後の対応だけは、経営者の判断で必ず正しく行うことができます。
長崎の事案は、「隠すこと」が最大のリスクであることを改めて示しています。
従業員を守ることは、会社の信頼を守ることにつながり、結果として経営そのものを安定させます。
自社の安全管理体制を見直すきっかけとして、ぜひ今回の事案を活かしていただければと思います。

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