
フォークリフト死亡事故から考える ― 企業経営における安全管理と法的責任
2026年2月、静岡県牧之原市の倉庫で、フォークリフトによるラック運搬作業中に鉄製ラックが崩れ、59歳の男性作業員が下敷きになり死亡する事故が発生しました。男性は2段に積まれたラックを移動させていたところ、上段が崩落したとみられています。事故原因は現在も調査中で、確定した情報は公表されていません。
フォークリフトは多くの企業で日常的に使用される設備ですが、厚生労働省の統計では、フォークリフトによる死亡災害は毎年30〜40名で推移しており、企業にとって“日常業務に潜む重大リスク”と言えます。
労災保険は最低限の補償にすぎない
労災保険は企業の過失に関わらず支給されますが、内容は制度上の最低限の補償です。遺族補償給付や葬祭料などが支給されますが、企業の責任が免除されるわけではありません。
遺族から訴えを起こされた場合、企業はどうなるか
遺族は企業に対し安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求を行うことができます。実際の裁判では、数千万円規模の賠償が命じられた事例が複数存在します。
過去の同種事故における賠償額(判決例)
- ① フォークリフト事故で作業員が死亡
大阪地裁(2019年)/約7,000万円の賠償命令 - ② 倉庫内作業中の死亡事故
東京地裁(2017年)/約9,000万円の賠償命令 - ③ フォークリフト誤操作による死亡事故
名古屋地裁(2014年)/約6,500万円の賠償命令 - ④ 荷崩れ事故で作業員が死亡
福岡地裁(2012年)/約8,000万円の賠償命令
これらの判決に共通するのは、「安全管理体制の不備」「教育不足」「作業手順の不徹底」が企業の責任として厳しく問われている点です。
刑事責任が問われる場合もある
労働安全衛生法違反が認められれば、事業者や現場責任者が書類送検されるケースもあります。労災は単なる“保険の問題”ではなく、企業の存続に関わる重大リスクです。
経営者が今すぐ見直すべき安全管理
1. 荷の安定性・設備点検
- 荷の重心位置の確認
- ラック・パレットの破損点検
- 過積載の禁止
2. 作業体制の整備
- 一人作業の禁止
- 作業エリアの立入管理
- 年1回以上の安全教育の実施
3. 経営リスクとしての備え
- 業務災害補償保険や事業総合賠償保険など、万が一に備える保険の活用
- 安全衛生管理体制の整備
- 事故発生時の初動マニュアルの整備
中小企業では「安全管理が属人化しやすい」ため、仕組みとして整えることが特に重要です。
結び ― 安全は“コスト”ではなく“企業の信用と未来そのもの”
フォークリフト事故は、毎年30〜40名が命を落とす重大災害です。ひとたび死亡事故が起きれば、企業は民事賠償・刑事責任・社会的信用の失墜という、極めて重い負担を背負うことになります。
しかし、何よりも深刻なのは、大切な従業員の命が失われるという取り返しのつかない現実です。安全対策は、従業員の人生を守り、家族の未来を守り、そして企業の信用と存続を守る“経営そのもの”です。
事故は、起きてからでは遅い。今日の小さな点検、今日の声かけ、今日の教育が、明日の命を守ります。
そして、どれだけ安全対策を徹底しても「絶対に事故が起きない」企業は存在しません。だからこそ、万が一の事態に備える手段として、業務災害補償保険や事業総合賠償保険の活用も、経営者にとって重要なリスクマネジメントの一つです。
「安全は文化であり、経営の基盤である」。この考え方を企業全体で共有し、日々の業務に落とし込むことが、次の事故を確実に防ぐ最も現実的で、最も価値ある投資です。
労災リスクや保険の見直しについてのご相談は、こちらからお気軽にお問い合わせください。
